柿渋テンポイント
伝統のエコ プロダクツ、いま蘇る 柿しぶ染めの「テンポイント」
1)その歴史「おばあさんは知っている」
いつ頃から使われていたのか古くは判りませんが、684年前の書文に、柿しぶの収斂作用を利用して、川に流して魚を捕る「柿流」が記載されています。広い利用が見られるのは江戸時代からのようです。江戸時代には色々な用途に使われるようになり、柿しぶの需要は増大し、日本各地で生産されるようになりました、その原料の山渋柿は農家の貴重な収入源となりました。
又町角にも「渋屋」が出来、庶民がこぞって買い、衣服を染めたり、紙に塗って紙子や行李に防湿用に貼ったり、木に塗ったり、薬として使ったり色々な用途に盛んに使われています。
明治・大正・昭和と使われましたが、昭和20年代の後半から、石油合成化学品の万能時代に入り需要が減退し今にいたっています。日本国中のおばあさんは今でも柿しぶのよさを良く御存知です。
2)製造方法「昔は家でも作っていた」
家で柿しぶを作るのは、渋柿を御盆前後の青いうちに採り、ウスに入れ杵でつき砕く、ドロドロの液に水を加え、麻袋に入れ絞る、絞った液を容器に入れて保存、数年寝かせ醗酵させる、寝かせれば寝かせるほど濃い色合いがでます。
柿の種類は渋(タンニン)の多い種類の柿を、渋の最も多い時期に採ります、「アオソ」と呼ばれる品種で「天王柿」・「田村」などが有名です。昔は3年物とか5年物とか言われ、その色味と効果を家毎に自慢し有ったそうです。江戸時代には柿渋の生産は一大産業になり柿渋生産を目的とした柿の品種も多く栽培されました。今では自動圧搾機で絞り大きなタンクで保存されます。今でも合成添加物など一切必要としない天然の成分100%の物が作られています。
3)今なぜ「柿渋」なのか、「柿渋は全くエネルギーを使わない」
少なくとも私達の祖父母の時代までは、石油化学合成品は有りませんでした、皆自然の素材、自然の色の中で生活を営んでいました。余りにも石油に頼り過ぎた20世紀、我々を取り巻く色はその殆どが石油から合成されています、これらは染料を作る際の公害、染める際の排水の公害、残渣の公害、人体への公害、染めた物の廃棄公害と環境を汚染し、人体にストレスを与えています。
自然の色はエコロジーで人体を優しく癒してくれます。21世紀は環境の世紀と言われています。柿渋は自然の色の能力を私達に教えてくれます。
4)用途「リサイクルの必需品で万能薬」
衣服を始め繊維製品(のれん・酒袋・醤油の絞り袋・袋物等)の染めと塗りに盛んに使われました、塗ったり染めたりすることにより、強くなり・色が蘇るので年に一回ぐらい染め塗り直し(染め塗り重ね)をしてリサイクルさせていました、染め塗りを重ねる事により、深みのある重厚な色が楽しめました。
紙(渋紙・一閑張り)や木(桶・柱・納戸等)の補強用・防水用、漆器の下塗り、良く知れれた物では番傘(長屋の浪人の内職)の下塗り等に盛んに使われました。
飲用の薬として血圧を下げる、二日酔いに効く、下痢に効く、又塗ることによりやけどに効く、しもやけに効く、虫刺され似効く、打ち身に効くと言い伝えられ使われてきましたが、科学的にも検証されつつあります。
5)色合い「柿右衛門の色か?」
柿右衛門の描く柿色は柿の実の朱赤色です、だが本来の柿色とは柿渋の赤茶色又は赤黒い熟柿の色を言います、塗りでは素材により赤茶色の濃淡、黒茶色の濃淡が出来、鉄に反応させると茶コールグレイになります。ベンガラに混ぜたり、他の天然素材色を補強したりします。
染色用の染料として使うと薄赤茶色になり、媒染剤を使い分ける事により薄柿いろが、色々得られます。合成化学物と違いベタ色にはなりません、複雑な厚みのある自然な色が得られます。
6)効用「何にでも使われた大衆薬」
柿は健康薬品として大昔から庶民に愛されてました、中でも柿渋は万能の常備薬として使われていました。ヘビや蛭、虫などに噛まれた時や、火傷やしもやけにも柿渋を塗ると治る、下痢をした時も柿渋を飲む等は、柿渋の収斂作用を利用した先祖の知恵です。
最近は血管の透過性を高め高血圧を防ぐ事が知られてきています。又柿渋は細菌の繁殖を防ぎます、これも収斂作用によって組織を引き締め細菌の繁殖をよせつけないからと考えられています、実験でも証明されています。(NHKウルトラアイ等)薬品以外に、防水・防虫・紙や木の補強剤として多くの用途に使われました。
7)表現 「自然の色は複雑色」
今世の中にあふれている色は、化学合成したベタ色が殆どです、しかし自然界にはベタ色は存在しません。初夏の緑、秋の紅葉をよく観察すると同じ色は殆ど有りません、微妙に複雑な色が入り交じり全体の色を構成しています、自然も時間と共に変化していきます。自然界で人が癒されるのは色にストレスを感じないからです。柿渋の色はまさに自然の色の表現しか出来ません、自然な手で塗ったような味わい、時と共に微妙に移り変わる色合いが楽しめます。
8)染め方 「塗って干せを繰り返せ」
柿渋を使って色を付けるのには、塗る方法と染める方法が有ります、染める方法は最近開発されました、古来からのは塗る方法です、塗り方は歴史が古く、用途が広かった為色々有ります、刷毛で塗る、浸ける、噴霧する、表面に流す等です。
何れにしても日に当てる事で色が濃くなり固着し堅牢になります、塗る→日に当てる事を繰り返すと色がどんどん濃くなります、又染め上がった物も、月日が経てば経つほど、妙なる色になってきます、刷毛や筆で描いた模様、絞って浸けた絞り柄など、独特の創作も出来ます。自然な微妙な擦れ当たり感、全体の自然な陰陽の有るムラ感、複雑な色の組み合った立体色など、天然の物ではならの表現が出来ます。
9)染めた物の取り扱い方法「鉄分が好き」
ここでは主として繊維製品の取り扱いについて記します。染め方も色々、素材も色々ですので取り扱い方法も一様では有りませんが、よく日に当てて固着させた物は、水洗い洗濯に充分耐えます。最初は不純物が出ますが3回目位からは出なくなります。むしろ日に当ててやると濃くなる傾向があります。家庭用合成化学洗剤の中には、蛍光増白剤の入った物がありますのでこれは出来るだけ避けて下さい。一番安心なのは、天然洗剤か中性洗剤を使用した手洗いです。(洗濯機の手荒いコースでも可)漂白剤(塩素系・酸素系)は絶対に使わないで下さい。ドライクリ-ニングは全く問題ありません。気を付けて頂きたいのは鉄分です。鉄錆をかけたりしますと反応を起こして色が黒くなってきます。水道水の中にも鉄分が有りますのでその分量により若干反応します。
10)これから柿渋染めは「ジャパン・ブラウン」
ブルーにインディゴがあるように、ブラウンには柿渋があると言います。柿渋がこんなに使われるのは日本だけです。日本独特の茶色「ジャパンブラウン」として新しい技術で磨かれ、エコプロダクトカラーとして、世界に広まる事になるでしょう。染める技術も、多様な表現方法も優れた若いクリエーター達により開発されて行くと思われます。
京都の着物グッズ(和装バッグ等)に代表される特殊な高価な柿渋染めばかりでなく、もっと生活の中に簡単に、手軽に、カジュアルに使える「柿渋染め」を広めるのが、柿渋の本来の存在であると思われます。